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私は二人をテーブル席に案内した。浩三はソファに深々と腰を下ろし、その隣で恭平が居心地悪そうに黙って座る。恭平は座るなり、テーブルの上にコンビニのビニール袋に入った何かを置いた。袋の中を覗いてみると、土筆が入っている。
「あら、土筆。懐かしいわ。昔、息子と一緒に取りに行ったのを思い出すわ」
「えっ!? 美沙子ちゃん子供いるの?」
浩三が驚いて大きな声を上げる。
「一応、結婚して子供もいたのよ。自由が欲しくて逃げ出しちゃったけど。まあ、もともと私は結婚なんかに向いてない人間だったのよ」
「へえ、、ちょっとびっくりしたな」
「そう? でも、あの子ももう、恭平くんと同じくらいの年になっているはずだわ」
言いながら、脳裏を息子の姿が過る。だけど、その姿は二歳だったあの頃のままだ。私の頭の中の息子は、二歳から成長していない。
私はビニール袋の中から土筆を一本取り出した。
「ねえ、恭平くん。土筆食べたことある?」
私の問いに、恭平は黙って首を横に振る。
「そっか。じゃあ、おばちゃんが料理してあげる。この土筆、貰ってもいい?」
今度は黙って首を縦に振る。私は浩三にビールを出し、土筆を持って調理場に入った。
まず、一本一本丁寧にはかまを取って数回水で洗う。それから、五分ほど下茹でして灰汁を抜いた後で冷水にさらす。そうやって下処理を終えた土筆を、醤油と味醂、砂糖で甘辛く味付けし、最後に卵でとじる。
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