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夫は田舎育ちで、子供の頃から土筆を摘んで食べていたらしい。そういう子供の頃からの習慣のせいで、土筆を摘んで食べなければ、春が来た気がしないのだそうだ。最初は抵抗のあった私も、今は土筆を美味しいと感じるようになった。
夫の朝食が済むと、私たちは出かける準備をして車に乗り込んだ。土筆の生える場所は何箇所か知っているが、何処に行くかはその時の気分次第だ。夫は駐車場から車を出しながら行った。
「今日は天気もいいし、せっかくだから、ドライブがてら新しいスポットでも探してみようか」
「時間はたっぷりあるし、それもいいわね」
「実は、もう、いくつか候補地を決めてあるんだ。それを順番に巡ってみよう。それで、どこにも生えてなかったら、いつもの場所に摘みに行けばいい」
夫はそう言うと、西に向かって車を走らせた。
夫の言う候補地の一箇所目と二箇所目には土筆が生えていなかった。夫は三箇所目の候補地へと向かって車を走らせる。やがて、窓の外に懐かしい景色が映り始める。どうやら、私が二十代の頃に住んでいた辺りに向かっているらしい。私は窓の外を眺めながら、二十代の頃に思いを馳せる。
やがて車は川沿いの道に出た。夫は適当な場所を見つけて車を止め、土手の様子を伺う。
「ほら、あったよ。いっぱい生えてる」
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