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父もその自覚からか、少し躊躇いがちではあるが自ら近づき手を掛ける・・・と思ったら、その瞬間よろけるように後ろに仰け反った。
辛うじてお尻をつかずに左手一本で支えられたのは、父親としてのプライドからかもしれない。
「ど、どうしたの?」
何の変化も見られない箱におののいた父に、母が問いかけた。
「お、お、音がしたぞ。何かが動いてる音がした」
父は実は隠れ小心者。幾ら隠そうとしても、とっくに俺たち子供には実例付きで母がバラシ済み。
特に、今回のように得体の知れないものには、めっきり弱いらしい。
「動いたって、まさか?」
母が顔を顰める。
「ちょっと来い、光弘」
俺を呼ぶ父。
「動いたって、何がさ?」
「いいから、き、来てみろ」
大げさだなと心では思いつつも、俺はその箱に顔を近づけてみた。一応、興味はある。後ろでは、
「ねえ、おばけ、おばけ」と妹の麗奈が騒いでいる。
その箱に貼られている熨斗紙は折り目一つ無く新品の綺麗な紙で、書かれている文字は達筆で、”お返し”と書かれている。その新しい熨斗紙が不気味さを引き立てている。
風変わりな血を引く両親が、この箱の存在に怯えるのも分かる気がする。
だが、両家の血を引いたにしては、俺はすこぶる一般人。所詮は何処ぞの誰かが書いたもの。そう思えば、なんてことは無い。
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