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「僕達には、居場所があると言うのは、喉からシャケが、いやいや手が出るほど羨ましい事なんだ。僕も妻も、昔は玄関だったけれど、今はテレビ台の下。それでも居場所があることは幸せだよ……」
「ふふ、あなた。喉からシャケだなんて。でも、それはそうとして、お給金もそう悪くはないんでしょう?」
鮭が少しのろけた後、波奈に問う。
「そうだぞーっ! 金は大事だ! 金は!」
机に突っ伏したまま、骸骨が叫んだ。
波奈は頷く。
一人暮らしが出来て、わずかながら貯金もしつつ、疲れたときに外食や、たまの旅行が出来る程度の賃金は貰えていた。
「そうですよう、何をするにもお金は大切ですから。……とは言え、わたしの足の怪我も、そもそもは社長さんがゴルフクラブをぶつけなければ、おきなかったことなんですよう。そればっかりは、なにかお返しをさせてもらわないと、いくら先代さんの息子さんでも、許せはしませんよう」
狸は頬を膨らませて怒った。
毛に覆われているのに、頬が赤くなった気さえする。
「……それは仕返しと言うのではないのですか?」
狸は首を慌てて首を振った。
「それは違いますよう、わたしたちは、人に、仕返しなんてできませんよう。わたしが波奈さんに足を治して貰って、夕飯のお返しをしたように、わたしたちはしてもらったことを、そのままお返しするだけですよう」
狸は、膨らませた頬を、揉んで戻した。
「そうだーっ……、おれたちは、うらんだりなんかしねえぞ、さびしい、さびしいだけなんだ……」
その言葉を最後に、骸骨がいびきをかき始めた。
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