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バレンタインが昔から嫌いだった。
正確に言うなら女がやたら色気を出してくるこの日が嫌いだった。
「言ってなかったっけ? 俺、付き合ってるやついるって」
校舎裏に呼び出され、本命チョコを片手に告白してきた女子生徒に言い放つ。
女子生徒は聞いてない、とでも言うかのような愕然とした表情で見てきた。
そりゃそうだ。だって言うわけねぇもん。というより、そんなやつ最初からいねぇけど。
「前の学校の子?」
「そうそう。中学の時から付き合ってる幼馴染でさー。
高校は運悪く離れちゃったけど、大学は同じとこに決まったんだ」
「そうなんだ……良かったね。知らずにあんなこと言ってごめん」
「良いって良いって。こっちこそ、応えてやれなくてごめんなー。
その気持ちだけ受け取っておくから」
一ミリも思ってもない言葉を吐き捨てて教室に戻ろうとすると
女子生徒はチョコの箱を押し付けてきた。
「これ捨ててもいいから……っ」
俺の記憶に焼き付けるかのように思いっきり涙を貯めながら女子生徒は立ち去った。
姿が完全に見えなくなったのを確認すると、うんざりしながらため息をつく。
「悲劇のヒロイン気取りかよ……じゃ、遠慮なく」
俺への愛が詰まった手作りのチョコレートを
なんの躊躇もなく学校の焼却炉に捨てた。
教室に戻ると、既に噂は広まっていた。
俺が振った女子を慰めるクラスメイト女子、
それに対して野次馬根性で群がってくる男子の構図が出来上がっていた。
クラスメイトの男子が話しかけてくる。
「なーお前彼女いんだって?」
「まーな」
「聞いてないんだけど! 写真見せろよ」
「やだねー」
「んじゃ、どこまでいったか教えて!」
「ご想像におまかせ」
「うわーぜってぇーこいつヤッてるよ! ちなみに胸はデカイー?」
「ははっ、いかにも童貞発言。ま、そこそこかな」
「うわーいいな、うらやましー!」
女になんてまるで興味が無いのに興味があるフリをして
どこにでもいるごく普通の今どきの高校生を演じる。
ここにいる奴等は全員、本当の俺なんか知らない――。
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