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――放課後。
バレンタインからようやく解放された俺は仙崎と帰り道を歩いていた。
「これから予備校?」
「うん。まだ入試終わってねぇし」
「そんな時期によくチョコ作る気になったな」
「一時間で出来るってククパットに書いてあったんだよ」
実際何時間掛かったのかを問うと仙崎は気まずそうな顔で黙り込んだ。
余程時間が掛かったのだろう。
「あー、まぁ、アレだ。落ちたら先生に養ってもらえ」
「透と同じこと言うなよ……」
「はははっ、お前らいっそのこと結婚しろよ」
軽快に笑い飛ばすと仙崎は拗ねて口を尖らせる。
「つーか受験生の前で落ちるとか禁句なんだけど」
「空気読めなくてごめーんっ!」
「悪いと思ってねぇな!」
仙崎とは、こうして冗談を言い合える程度に仲良くなった。
一方で風弥先生は俺に対して相変わらず敵意むき出しで、
仙崎に近づこうとするやいなや周りに見えないように中指を立てくる。
終いには耳元で殺すと連呼して、生徒相手に大人気ない、つくづくダメな教師だ。
「ま、これが指定校推薦で決まったヤツのヨユーよ」
「あの時期に転入してきたくせによく取れたよな」
「俺こう見えて優等生よ? 成績もいいし、文化祭の時だって大活躍だっただろ?」
「お前のせいで俺は女装させられる羽目になったんだけどな!」
「あれは傑作だったな―。ま、普段の行いから言って仙崎が推薦取るのは百パー無理だな」
「最初から諦めてたっつーの。特に俺は柳瀬に嫌われてるから内申書悪いし」
話題に上がっているのは俺と仙崎のクラス担任、柳瀬真琴のことだ。
生徒に厳しく、眉間の皺がトレードマークの冷酷な鬼教師。
顔に似合わず現国を担当していて、やたら難解なテスト問題を作ることで有名だ。
「誰が担任だって仙崎の場合は同じだって。ヤンキーなんだから」
「でも柳瀬の場合は特別。妙に突っかかってくる気がするんだよなー。保健室に行こうとすると大抵睨まれる」
「学年主任だからだろ。生活指導だよ」
「あー、まじでうぜー」
「まぁ、ともかく頑張れよ。受かって俺と同じ大学行こうぜ」
「うん。俺もお前がいたほうが心強い。美咲は初めて出来た友達だし……」
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