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仙崎は照れくさそうに頬をかく。その姿を見て俺は唖然とする。
冗談だったとは言え、仮にも襲われそうになった相手に取る態度じゃない。
どんな環境に置かれればこんな良い子ちゃんのヤンキーが出来上がるのか……。
いたたまれなくなった俺は仙崎の肩をガシッと掴んだ。
「あのさぁ仙崎……俺が言うのも何だけど、お前もうちょい危機感持って」
仙崎はきょとんとしている。
その姿は棘を無くしたハリネズミというよりも無防備なハムスターだ。
チョロい。チョロすぎる。ハイエナ共に食い散らかされる前に保護するしかない。
「同じ大学行ったら授業もサークルも全部俺と同じな!」
「授業は被ればいいけど、サークルは入んねぇと思うぞ」
「わかった。それでもいいよ。できるだけ俺から離れんな」
「はぁ? なんで」
「い・い・か・ら!」
仙崎はイマイチ納得いっていない様子で頭をかく。
なんというかこいつは妙に保護欲を掻き立てるから恋愛感情はなくても無性に構いたくなる。
「あー、お前といるとホント和むわー。ちょっくら抱き締めさせてー」
「だっ、おい! 離れろ! 俺は浮気する気ねぇからな!」
「ごめん。俺、仙崎みたいな可愛い系はタイプじゃねーや」
「なんで俺が振られたみたいになってんだよ! 俺だってお前なんか願い下げだ!」
……と、仙崎をからかって遊んでいたところで分かれ道に差し掛かる。
「仙崎はあっちだろ? 俺、今日もバイトだから」
「ずっと気になってたんだけど、お前何のバイトしてんの? お前の働いてるとこ見たい」
「道路工事だから、むーりー」
「うわ、よりにもよって、なんで肉体労働選んでんだよ」
「時給高いからに決まってんだろ」
ふぅーん、と言った態度で、仙崎はそれ以上は突っ込んでこない。
昼間の時といい、自分でもよくもまぁ息を吐くように嘘をつけるもんだと思う。
(肉体労働ってのは、あながち間違ってないか……)
「じゃ、仙崎。また明日」
「ああ。じゃあな」
仙崎を見送って、自宅の方向へ歩き出す。
(一回、家に帰って着替えるかー……)
と思った途端、スマホが鳴る。店からの予約受付のメッセージだ。
本指名客の名前を見て俺は口元に笑みを浮かべた。
――その日の夜。指名客のマンションに向かう。
今ではすっかり行き慣れた部屋のインターフォンを鳴らすと、数秒立たないうちに物音がしてドアが開いた。
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