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今日も豪勢な夕飯だった。満腹感に誘われ、優斗は布団で横になる。昨日は机で寝落ちしたから、落ち着いて床に就くのは退院後初めてのことである。
布団の中で昼のことを思い出す。中西先生はサンクスメールなど書かなくて良いと言った。臓器移植は善意による行為であってドナーの家族は見返りなど求めていない、元気になってほしい気持ちを提供したのに無理して書いてはドナーも報われないと彼女は言った。
ダチとメシを喰った時、同じように「書かなくて良いんじゃね?」と言う奴がいた。そいつはよく秋葉原の献血ルームへ行くと言う。
「だってあそこ、ただでジュースが飲み放題で、漫画も読み放題なんすよ。奉仕精神? そんなの有るわけないっすよ」
その時は奴をひっぱたいたが、案外そんなものかもしれないと今になって優斗は思う。自分にとっては大きな恩でも向こうにとってはほんの小さな親切で、「遺族の身体を単に燃やしちゃうのはもったいないから~」といった軽い気持ちが発端の可能性だって否定できない。そう考えるとクソ真面目に返礼するのが馬鹿らしくも思われてきた。
その後もしばらく思案したが、結局手紙を書くかどうかは決めかねた。それ以前に及第点のとれる手紙を書けるかという問題もある。だから今日のところは、せめて睡眠時間を確保し健康的な人生を堪能するということでご厚意に報いたことにしようと妥協して、優斗は暗闇に瞼を閉じた。
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