善意の糸

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 優斗がバイク事故を起こしたのは二年前のことだった。元々素行が良い方では無かったが、高校生に成りたてで気が大きくなっていたのだろう、友人とツルんで興味が湧いたことは何でもやった。酒、煙草、賭け、女。両親や教師の説教など右から左に聞き流した。  ある日のこと、友人の一人が兄の原付をくすねてきた。初めはバランスをとるのに苦心するも、しばらくすればみんな運転できるようになった。そして代わりばんこで町内を一回りすることになった。それが運の尽きだった。  誰よりも早くゴールしてやろうと思った優斗は、出来る限りのスピードを出し、信号無視も辞さなかった。それでも転ぶことなく爆走し、いよいよゴールの直前までやって来た。あと交差点一つ越えるだけ。視界はゴールで待つみんなの姿を捉えていた。勝鬨を上げるつもりでクラクションを鳴らそうとした。どう鳴らすか分からなかったので一瞬ハンドルの方へと目をやった。  大型トラックが右方より迫り来るのも気づかずに。  すぐに救急車が呼ばれて病院に運ばれた。一命を取り留めたものの被害は甚大だった。特に致命的だったのは腎臓、このままでは後遺症で元の生活に戻るのは至難であると判断された。  うっすらとした記憶の中で、優斗は両親や友人が泣きそうになりながら自身を見下ろしている光景を覚えている。「ああ、もうダメなんだな」と何となく察した。死を覚悟した日々は途方もなく長く感じられた。  その後、ドナーが見つかり臓器移植が成功し、無事に今日の退院の日を迎えることになる。  母の運転する車の中で、優斗はドナーのことを考えていた。一体どんな人だろう。誰であれ、諦めたはずの人生を救ってもらったという大恩、流石にお礼をしないわけにはいかない。  さてどうしたものか、物思いにふけるうちに、懐かしの我が家に帰り着いた。
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