善意の糸

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「まず冒頭。ここだけやたら丁寧に書かれてるわね」 「父さんに貰った本を参考にしたんだ」 「でも何も考えずに丸写しちゃ駄目よ。『麗春の候、貴社ますますご繁栄のこととお慶び申し上げます』ってあるけど、『貴社』はどうかしらね。大抵こういうのはドナーのご家族に送るものだから、個人向けの言い方にしないと」 「なるほど」  中西のアドバイスを手紙に書きこむ。優斗は『貴社』に横線を引き『貴人』と書いた。 「次はその下。何で料理のレシピなんかを書いたのよ」 「祖母ちゃんが自慢の煮物をご馳走したいって言うんだよ。手紙しか駄目だって言っても聞かないから、折衷案でそうなった」 「じゃあちゃんとそう書かないと。挨拶もそこそこにこんなこと書かれても訳が分からないわ」 「分かり易くするよ」  レシピの所から線が引かれ、『ばあちゃんと煮物のイラスト』とメモ書きされた。 「それから中盤で唐突に始まる変なラップ。『俺はかつて死を待つ患者(YO!) だけど今は沸き立つ感謝(HEY!)』って何? いや、音楽の良し悪しは私には分からないわよ、でもサンクスメールの六割を占めるのは流石にどうかと思うわ」 「それはダチのアイデアだ。文字だけじゃなくてリズムに乗せた方が、ハートにビンっと来るんだってさ」 「私はどちらかと頭にきたわよ」 「頭かぁ……」  手紙には『一応効果アリ』と記載された。
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