最後の朝

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「おじさんさ、てっきり、ウチの美奈と郁美ちゃんは、生まれてからずーっとものすごく仲の良い親友同士だって、思い込んじゃってたみたいなんだよね。それがどうも、車の中の二人の様子を見ていると、必ずしもそうじゃないってことに、ある日、気が付いてね」  咄嗟に否定しようと試みたが、適当な言葉すぐに見つからず、詰まってしまった。 「ほら、ウチの美奈はさ、ちょっと言葉がきつくて口が悪かったろ、それに対して郁美ちゃんは大人しいタイプだから、嫌な思いも、何度かさせられたんじゃないかって」  確かに中学時代、ギクシャクしていた一時期、陰で色々言われていたのは知っている。明朗活発で少し皮肉屋だった美奈ちゃんに対し、私は、引っ込み思案で、どこか夢見がちな女の子だった。合わないものは合わない。幼なじみだろうが、こればっかりはしょうがない。 「でも、親っていうのは勝手なもんでね。自分の娘はやっぱり、他のどんな子よりも、良い子に見えちゃうんだよね。だから美奈にまつわる全てのものが、美しいものであって欲しいわけ。美奈がああなった後も、郁美ちゃんのことをお願いしてまで送り続けたのはさ、毎朝この車の中で、美奈との思い出話を聞かせて欲しかったからなんだよ」  この半年間、正直、美奈ちゃんの話はほとんどしなかった。だって、なるべく触れてはいけないと思ったからだ。 「郁美ちゃんの口からね、親の目からは知り得ない、美奈との思い出話を色々と聞いてね、ああ、二人はやっぱり仲の良い親友同士だったんだ、そうじゃないっていうのは俺の勘違いだったんだって、そう、思えれば、ってね。ん、だけど、やっぱり・・・」 「お、おじさん、そ、それは」 「いいんだよ、もう。ありがとうね、車の中で居づらいこともあったろうに。我慢して付き合ってくれて、本当に、ありがとう」  おじさんが涙ぐんでいるのは、声の様子ですぐに分かった。  やがて、駅に着いた。いつもよりも3倍ぐらいの速さで着いた気がしたが、車内で過ごした時間の濃密さは、3倍以上どころではない。
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