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傷もまだ完全には癒えてないだろう、と言い訳のように付け加える。
花を摘み笑うお前の幼いはしゃぎ方と、右目に巻かれた包帯と、左脚を庇いながら座ったぎこちなさ、袖から覗く青黒い傷跡と線の走ったような無数の刃の痕とがアンバランスで妙に痛々しかった。
「別に大したことないよ。もう目も完治したし、歩けるようになったもの」
ふふ、いざとなったらクルスを杖にしようかなんて、冗談だよ。お前はさらっと提案を受け流して、決定事項だと告げた。
「お前は毎度聞かねえな……少しは」
心配してるんだが、と言いかけてとても言えなくて口を噤んだ。お前が不思議そうに首を傾げる。
勇者なんてやめて逃げてもいいんだぞ?
それは何度も言ったことだが、その度にお前はきょとんと首を傾げるだけだった。感覚がおかしくなっている、そしてもう明日にはお前は世界を救ってしまう。なぜ自分が焦っているか分からないまま、言い淀みながら説得を続けようとした時に村の子供たちが駆け寄ってきた。
「『聖母(マリア)様』!」
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