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そう呼びかけられるとお前はその呼び名に困ったようにしながらも微笑んだ。子どもたちに乞われて、ぎこちなくも花冠の作り方を教えてやったりして仲睦まじく遊んでいる。話は遮られたが子供同士で遊ぶ様子は和むもんだ、まあいい。俺も荷物の上に立て掛けられたままぼんやりと見ていた。
不意に母親達が来て、恐縮して頭を下げ始めた。
お前は相変わらず人と話す時は目を伏せ気味だが、慣れたもので母親に村の歓待に礼を述べ、子供に花冠を被せて小さく手を振った。
そこまではいい、だが去り際の母親の台詞に俺は虚を突かれた。
「すごい傷ね……さすが勇者様だわ。明日? まあ……どうか世界を救ってくださいね」
それは違うだろ、と思って俺がお前に目をやるとお前は黙って微笑んでいた。子供たちが、さようなら聖母様、と言った。遊び相手を見ていた目は、母親に促されて畏敬と崇拝の視線に変わった。
お前は変わらず微笑んでいた。
「さっきの……」
「ああ、『聖母様』? 呼ばれ始めて長いけど未だに慣れないな……」
首から鎖で垂らした小さな十字架を触り目を伏せる癖をして、お前は困ったように笑った。
「いや、違えよ。……さすがっておかしいだろ、って思っただけ」
お前はちょっと黙った後、そうだね、大した傷でもないし、と呟いた。明日は頑張るね、と俺に微笑む。
違う、と苛立ちながら俺は声を荒げた。
「もう後がないんだよ」
分かってるか? 明日、お前は世界を救うかもしれないんだぜ?
「分かってるよ」
「分かってない」
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