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2019.3.24
おお、勇者よ! 伝説の剣を抜き世界を救いたまえ!
そんな言葉に背を押されお前は、一瞬祈るように目を伏せ、そして小さな手を俺に伸ばした。
白いレースで縁取られた透けるベールを纏ったシスター服、まだ少女らしい幼い顔立ちだったが雰囲気は大人びていた。
よろしくお願いします。そう言った時、緊張を和らげるかのように首に下げた十字架を握って、一瞬祈るように目を閉じた。それは癖のようで、白い肌と艶やかな黒髪、整った顔立ちと相俟って随分絵になって見えた。
「私と一緒に世界を救っていただけますか」
そう言ってお前は俺を見た。大きな瞳がいやに印象的で、鉱石の欠片のように光を溶かした黒色は透き通って凪いでいた。
おう、と言ってこれで何度目かな、と考える。世界があるからにはいつか滅びるし、滅びるからには勇者が救う。そうして繰り返し繰り返し世界は救われている。聖職者どもが語り継いで、皆が前に世界が終わったのを忘れたころ、また滅び始めて俺は起こされる。予定調和、慣れたもんだ。飽き飽きでもあるが、まあ正しく無関心。好きでも嫌いでもない。進んで救う気概もねえが見放す程の理由もない。
「じゃあまずは名をくれ」
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