片耳

11/11
前へ
/55ページ
次へ
『治れ治れ……痛いの痛いのとんでいけ』 いつの日か、お母さんがしてくれたように。 ――治れ治れ いたいのいたの、とんでけ そう心を込めながら。 そしたら、暖かい指は掌で猫の頭を包み込むように撫でてくれました。 「ありがとう」 胸がじんわりと温かくなる声でした。 片耳の猫はどこも痛くないのに、涙が出そうになりました。 猫は心地よい温もりを求めてその手にすり寄りました。 手は猫のおでこを優しく指で撫でました。 そして、手は離れました。 「もう大丈夫だね」 そう言って、手の主は笑いました。 彼の笑顔は太陽のように眩しく。 暖かい笑顔でした。 『ありがとう』 一生懸命声を出したけど。 彼には伝わらない。 片耳の猫はお礼を言いたかった。 けれど猫はとても疲れていました。 いっぱい寝たはずなのに、瞼が重くて仕方がありませんでした。 そして、片耳の猫は。 ゆっくりと目を閉じ。 深い深い眠りの中に落ちていきました。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加