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『治れ治れ……痛いの痛いのとんでいけ』
いつの日か、お母さんがしてくれたように。
――治れ治れ
いたいのいたの、とんでけ
そう心を込めながら。
そしたら、暖かい指は掌で猫の頭を包み込むように撫でてくれました。
「ありがとう」
胸がじんわりと温かくなる声でした。
片耳の猫はどこも痛くないのに、涙が出そうになりました。
猫は心地よい温もりを求めてその手にすり寄りました。
手は猫のおでこを優しく指で撫でました。
そして、手は離れました。
「もう大丈夫だね」
そう言って、手の主は笑いました。
彼の笑顔は太陽のように眩しく。
暖かい笑顔でした。
『ありがとう』
一生懸命声を出したけど。
彼には伝わらない。
片耳の猫はお礼を言いたかった。
けれど猫はとても疲れていました。
いっぱい寝たはずなのに、瞼が重くて仕方がありませんでした。
そして、片耳の猫は。
ゆっくりと目を閉じ。
深い深い眠りの中に落ちていきました。
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