片耳

6/11
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/55ページ
片耳の猫はとても怖かった。 大きな声、自分より倍以上ある体、怪しく光る何でも噛み千切りそうな牙。 怖くて、怖くて、怖くて、怖くて。 猫は耳をたたみ丸くなりました。 「何してんだ! ここから去れ!」 大きな猫は叫びました。 片耳の猫は逃げたくてたまりませんでしたが、怖くて足が動きませんでした。 すると。 「ちょっと、五月蠅いよ」 違う声がしました。 それは、人でした。 大きな猫よりも大きな大きな人は、「何騒いでんだい」と言いながら大きな猫を見、その視線の先の片耳の猫を見ました。 「まぁまぁまぁ! 可愛らしい子猫じゃないかい。こんなに怯えて……」 人は丸くなっている猫に近づきました。 猫はその重たい足音に吃驚してさらに体を小さく丸めました。 「大丈夫よ~。おいで~。ほら、餌だよ~」 そんなことを言いながら人は手を出してきました。 その掌の中に、小魚が数匹いました。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!