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「ああ汚らわしい、汚らわしい! こいつ、片耳がないじゃないか!」
人は近くに立てかけてあった竹ぼうきを持つと片耳の猫に突き付けました。
「出ていけ! 耳がないということは病気を持ってるに違いない! ウチに近寄るなぁ!」
人は叫びながら、片耳の猫に向かって竹ぼうきを振り回します。
竹ぼうきの先が額をかすめ、子猫は悲鳴を上げました。
痛い、熱い、怖い、いやだ――――
猫の本能が、命の危険のベルを鳴らしました。
恐怖で動けなかった片耳の猫の身体が動き出しました。
逃げなきゃ、逃げなきゃ――――
片耳の猫は必死に走りました。
とにかく、あの怖い人のいないどこか遠くへ行こうと必死でした。
遠くへ、もっと、遠くへ――――
片耳の猫は必死に走りました。
途中、すれ違う人が猫を見下ろしました。
その瞳の光が怖くて、猫は必死に走りました。
見ないで、怖い、やだ――――
人の視線から逃げようとするも、どこに行っても人がいます。
人がいないと思ったら、別の野良猫が毛を逆立て威嚇してきます。
猫は怖くて怖くて仕方ありませんでした。
――――そうだ、隠れよう
片耳の猫は。
草と枝が交差している茂みに突っ込みました。
そして奥の方へと進み、体を丸めました。
枝が体をかすめてチクチクとあちこち痛みましたが、恐怖で興奮した猫はそれどころではありませんでした。
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