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見られる恐怖。
大きい音の恐怖。
痛めつけられる恐怖。
昨日まで幸せだった片耳の猫は。
恐怖でまた動けなくなり。
茂みの中で丸まりながら、疲労に苛まれ、深い深い眠りにつきました。
「お母さん――」
暖かい温もりを思い出し、ゆっくりと頬に涙を伝わせながら――――
片耳の猫は、ハッと目覚めました。
同時に、体中があちこち痛み、特に額がズキズキと痛みました。
「喉……乾いたな……」
満身創痍の猫は、水を求めて茂みを出ました。
「あれ?」
人の声が聞こえ、猫は固まりました。
叩かれる、大きな声で怒鳴られる――――
逃げなきゃ、と猫は思いましたが、疲れ切った猫の身体は思うように動けません。
焦れば焦るほど片耳の猫の身体は固まり、言うことを聞いてくれません。
――もう、いいや
片耳の猫は、諦めました。
痛みと、恐怖と、空腹と、喉の渇きと。
満たされない欲求や感情が片耳の猫を一気に襲い、猫はその場で倒れました。
たっぷり寝たはずなのに、意識が段々遠くなっていきました。
「お母さん……」
会いたいよ――――
そう、願った片耳の猫は。
ゆっくりと目を閉じました。
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