114人が本棚に入れています
本棚に追加
「いおっ! かくれんぼしよっ」
部屋のドアが開いて、元気な声とともに小さな顔がのぞいた。柔らかそうな黒髪が声と同じように元気に撥ねている。
なんだ、もうそんな時間か。時計を見て軽く驚いた。もう午後2時を過ぎている。
「おかえり、まっか。幼稚園楽しかった?」
「うん、楽しかった! ねえ、いおっ、かくれんぼしよっ」
小さなその子は部屋の中には入ろうとせず、ドアのところからうずうずしたように私を見つめている。なぜなら、この部屋は絶対立ち入り禁止。この5歳になる甥っ子は、やんちゃだけど私の言いつけをちゃんと守ってくれる良い子だ。
私はペンを机に置いてうーんと背伸びをした。昼食も取らずに集中していたけれど、そんなにお腹もすいていないし、相手してやってもいいかな。
「よし、やろうか。じゃあ今日も2階で――」
「今日はお庭ね~! まっか、いっとっくよ~」
牧夏、とうまく自分の名前が言えない甥っ子は、自分のことを「まっか」と言う。それが彼の愛称だ。
私の言葉を遮って駆けて行った甥っ子にため息を吐き、窓の外を眺めた。
「庭、かぁ……。確かにいい天気だけど、ね」
再度盛大な息を吐きつつ、よいしょと立ち上がった。
寝不足気味の身体に外遊びは少々きついけれど、かわいい甥っ子のお願いだ、仕方ない。
最初のコメントを投稿しよう!