プロローグ

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「いおっ! かくれんぼしよっ」    部屋のドアが開いて、元気な声とともに小さな顔がのぞいた。柔らかそうな黒髪が声と同じように元気に撥ねている。  なんだ、もうそんな時間か。時計を見て軽く驚いた。もう午後2時を過ぎている。   「おかえり、まっか(・・・)。幼稚園楽しかった?」 「うん、楽しかった! ねえ、いおっ、かくれんぼしよっ」  小さなその子は部屋の中には入ろうとせず、ドアのところからうずうずしたように私を見つめている。なぜなら、この部屋は絶対立ち入り禁止。この5歳になる甥っ子は、やんちゃだけど私の言いつけをちゃんと守ってくれる良い子だ。     私はペンを机に置いてうーんと背伸びをした。昼食も取らずに集中していたけれど、そんなにお腹もすいていないし、相手してやってもいいかな。   「よし、やろうか。じゃあ今日も2階で――」 「今日はお庭ね~! まっか、いっとっくよ~」  牧夏(まきか)、とうまく自分の名前が言えない甥っ子は、自分のことを「まっか」と言う。それが彼の愛称だ。  私の言葉を遮って駆けて行った甥っ子にため息を吐き、窓の外を眺めた。   「庭、かぁ……。確かにいい天気だけど、ね」  再度盛大な息を吐きつつ、よいしょと立ち上がった。  寝不足気味の身体に外遊びは少々きついけれど、かわいい甥っ子のお願いだ、仕方ない。  
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