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奇子の父親である文人が、ヤオの力で一時的に蘇ってから初めての日曜日。外は朝から大雨強風で嵐のような空模様。
「こりゃ休みにするしかねェな……」
巡り喫茶はぐるまのマスター、海野健次は寝癖だらけの頭を掻きながら言うと、明かりをつけてから雨戸を閉めはじめる。彼はスラリと背が高く顔立ちも整っているが、少しばかり困った性格をしている。
「おはようございます。あ、手伝いますよ」
ひと足遅れて来たのは、歳が離れた恋人の白浪奇子。彼女は元は社会人だったが、現在は文学専門学校に通っている。
「それならモップで濡れたところ拭いてもらえるか?」
「はい」
奇子は用具入れからモップを出すと、雨戸にする際に濡れた床を拭いていく。
雨戸閉めと掃除が終わると、ふたりの朝食が始まる。今日は昨日あまったパスタで作ったカルボナーラだ。
「奇子、今日はふたりでゆっくり過ごすか」
「いいですね、何しますか?」
「実はまだお前に教えてない秘密が、この建物にあるんだ」
海野の話を聞いた途端、奇子は目を輝かせる。
「もしかして隠し部屋があるんですか!?」
「そうだ。場所やらなんやらは、飯が終わってからのお楽しみだ」
奇子が質問攻めをする前に、海野は釘を刺す。
「楽しみです。あ、そうだ、この前の話の続き、聞かせてもらえますか?」
「この前? なんかあったか?」
海野は視線を宙にさ迷わせて思い出そうとするが、見当がつかない。
「健次さんのご両親の話ですよ、フランスにいるっていう」
「あぁ、あれか。いいぞ、隠し部屋についたらな」
「はい」
ふたりは食事と片付けを終わらせると、住宅側の玄関へ行く。
「ここに隠し部屋があるんですか?」
奇子はフローリングの床をまじまじと見たり、壁を叩いたりする。
「そっちじゃねェ、上だ」
海野は下駄箱にひっかけてある靴べらを手に取ると、天井を見上げた。
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