嵐のような空模様

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「あぁ、それなら問題ない。とりあえず観たいやつ選んでこい」 「はい」 奇子はDVDが並んでいる棚の前に立つと、何があるのかじっと見る。 (有名な探偵小説の実写が多いなぁ……。あ、アルセーヌ・ルパンだ) 後ろで海野が動くのを感じながら、奇子は1本のDVDを選んだ。 ベッドに戻ると、テーブルの上に緑茶のペットボトルが2本並んでいる。 「飲むか?」 奇子は差し出されたペットボトルを受け取ると、DVDを海野に渡した。 「ありがとうございます。健次さん、これがいいです」 「お、懐かしいな」 海野はパッケージを見て目を細める。タイトルは“怪盗紳士アルセーヌ・ルパン”。 「気になってはいたんですけど、なかなか読む時間なくて……」 「今度からはここに来ればいい、偏ってはいるがな」 海野がテーブルの下に手を入れて中のボードをスライドさせると、DVDプレーヤーが出てきた。 「こっちは頼んだぞ」 海野は奇子にDVDを渡して立ち上がると、壁に立てかけてある先端が鈎状になった棒を天井に向ける。海野が棒を下に向けると、スクリーンが現れた。 「スクリーンがあるなんて、贅沢ですね」 奇子はDVDをセットしながら、真っ白なスクリーンを見る。 「俺はテレビなんざ見ねェからな、こっちのが返って安上がりなんだよ」 そう言って奇子の隣に戻った海野は、リモコンを上に向けて操作する。するとスクリーンに家電メーカーの名前が現れ、その後にDVDが再生される。 ふたりは肩を寄せ合い、アルセーヌ・ルパンの大冒険を楽しんだ。 「怪盗ものって初めて観ましたけど、スリルがあって面白いですね」 「だろ? 探偵も好きだが、俺は怪盗の方が好きでな」 海野はそう言って無邪気に微笑んだ。 (こんな顔も、できるんだ……) 初めて見る恋人の表情に、奇子は胸を高鳴らせる。 「他のも見たい気もするが、また後でだな……」 海野はあくびまじりに言うと、リモコンを操作してプロジェクターの電源を落とす。 「なんでですか?」 「雨音で早起きしたからな、寝る」 (おうちデート日和って言ってくれたのに……) ベッドに上がってもぐる海野に、奇子は寂しさを覚える。
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