3人が本棚に入れています
本棚に追加
「あぁ、それなら問題ない。とりあえず観たいやつ選んでこい」
「はい」
奇子はDVDが並んでいる棚の前に立つと、何があるのかじっと見る。
(有名な探偵小説の実写が多いなぁ……。あ、アルセーヌ・ルパンだ)
後ろで海野が動くのを感じながら、奇子は1本のDVDを選んだ。
ベッドに戻ると、テーブルの上に緑茶のペットボトルが2本並んでいる。
「飲むか?」
奇子は差し出されたペットボトルを受け取ると、DVDを海野に渡した。
「ありがとうございます。健次さん、これがいいです」
「お、懐かしいな」
海野はパッケージを見て目を細める。タイトルは“怪盗紳士アルセーヌ・ルパン”。
「気になってはいたんですけど、なかなか読む時間なくて……」
「今度からはここに来ればいい、偏ってはいるがな」
海野がテーブルの下に手を入れて中のボードをスライドさせると、DVDプレーヤーが出てきた。
「こっちは頼んだぞ」
海野は奇子にDVDを渡して立ち上がると、壁に立てかけてある先端が鈎状になった棒を天井に向ける。海野が棒を下に向けると、スクリーンが現れた。
「スクリーンがあるなんて、贅沢ですね」
奇子はDVDをセットしながら、真っ白なスクリーンを見る。
「俺はテレビなんざ見ねェからな、こっちのが返って安上がりなんだよ」
そう言って奇子の隣に戻った海野は、リモコンを上に向けて操作する。するとスクリーンに家電メーカーの名前が現れ、その後にDVDが再生される。
ふたりは肩を寄せ合い、アルセーヌ・ルパンの大冒険を楽しんだ。
「怪盗ものって初めて観ましたけど、スリルがあって面白いですね」
「だろ? 探偵も好きだが、俺は怪盗の方が好きでな」
海野はそう言って無邪気に微笑んだ。
(こんな顔も、できるんだ……)
初めて見る恋人の表情に、奇子は胸を高鳴らせる。
「他のも見たい気もするが、また後でだな……」
海野はあくびまじりに言うと、リモコンを操作してプロジェクターの電源を落とす。
「なんでですか?」
「雨音で早起きしたからな、寝る」
(おうちデート日和って言ってくれたのに……)
ベッドに上がってもぐる海野に、奇子は寂しさを覚える。
最初のコメントを投稿しよう!