沖田総司 最期の一日

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「土方さんが怪我をした時、覚えていますか。宇都宮での戦い。あの時だけですよ、私が土方さんと別行動をしたのは」   確かに総司の言う通りだった。 土方がこの長い戦続きの中で動けなくなる程の大怪我をしたのはこの一度きりだ。 そして、総司が土方とは別働隊にいたのもこの時だけだった。 「ね、土方さんを守るのは私の役目ですから」 そう言って切なそうに、懇願するように笑う総司の顔を見ると辛くなる。 最後まで一緒にいてやりたいのは土方とて同じだ。 ずっと弟の様に思ってきた総司が目の届かない所にいるのは彼の武運を信じていても、やはり心配で仕方がない。 けれど―。 「今回はその力を、新選組を守ることに使ってくれ」 そう言う事がやっとだった。 本来ならば旧幕府軍の為に、箱館を守るために、そう言うのが筋だろう。 だが、総司がそれでは動かない事を土方はよく知っている。 新選組として京の市中を駆けずり回っていた時だって、総司の原動力はいつも近藤だった。 大義名分など彼にはどうでも良いのだ。 「嫌です」 総司はきっぱりと答えた。 「新選組を託されたのは土方さんです。それならば土方さんも新選組と行動を共にすればいい」 「最後まで俺の言う事は何一つ聞いちゃくれないのか」 寂しそうに言う土方に、力強く首を縦に振った。 結局、総司は近藤以外の命令を聞く気はないらしい。 それを見て、土方は顔を引き締めた。 「いい加減大人になれ」 「こんな命令を聞く事が大人だと言うなら、私はいつまでも子ども扱いで結構です」 睨み合う二人の間でランプの灯が悲しげに揺れた。
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