沖田総司 最期の一日

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  部屋に訪れた沈黙。それを破ったのは総司だった。 「でもまぁ」 吐き出すように言うとそこで一旦言葉を止め、ふっと小さく笑みをこぼした。 「いいですよ。今からあちらに向かいます。近藤さんもきっとそう言うでしょうから」 話を一方的に終わらせるかの様に立ち上がると、これからすぐ発ちますといって部屋を後にしようと踵を返した。 「待て、総司」 慌てて総司の名前を呼ぶ土方の方へと振り向けば、何故か今にも泣きそうな顔が目に入った。 眉間に皺を寄せて必死に耐えている。 行けと言ったり待てと言ったり、相変わらず我儘な人だ。泣きたいのはこっちだと思う一方で、そんな土方の顔を見ると何故か笑みが深まる。 「何ですか」 話を聞く素振りを見せる総司に少し安心したのか、寄せた眉の間隔が少しだけ開いた。 京にいた頃と比べて幾分か柔らかくなったとはいえ、こういった私情を隠して話す時は癖になっているのか、やはりいつもしかめっ面だ。 そんな土方の表情は怖いとも分かり辛いとも周囲からは囁かれているが、存外分かりやすい。
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