【あの日失ったもの】

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【あの日失ったもの】

 高く登った太陽が、誰もいない静かなキッチンを照らしていた。 『食事だけは取るように。父より』  そう記された手紙と不格好なおにぎりが3つ。テーブルの上に佇んでいた。   天使可憐(あまつかかれん)は、自室のベッドに寝転がり天井を見つめてため息をついた。連続不登校記録は今日で1年になる。  可憐の母、天使愛(あまつかあい)が亡くなったのは、可憐が高校1年の秋頃だった。以来、父との仲も険悪になっていき、今日に至る。  小学校から成績優秀で、周囲からも将来を有望視されていた可憐には分かっていた。本当は誰も悪くないということを。  母の病気は分かった時点で施しようがない状態だったし、父は仕事の合間を縫ってずっと母のそばにいた。それなのに……。  誰かのせいにしないと心を保てなかったのだ。母が亡くなったのも、そのせいで学校に行く気がなくなったのも、全部父のせいにした。  お人好しである父はそんな可憐に文句を言うこともなく、すべてを受け入れた。だがそんな父の態度でさえも、可憐を苛立たせた。
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