【あの日失ったもの】

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 昼頃に起き、食事を済ませた後は、眠くなるまで動画を見たりゲームアプリなどをして過ごしたりすることが、日課になっていた。  時折襲ってくる不安や焦燥感に震えながら過ごす毎日に嫌気がさすこともあったが、自分で抜け出す方法は見つからなかった。  今日もきっとそうなると思ってたところで、玄関のチャイムが鳴った。  いつも無視していたのだが、今日は様子がおかしい。訪問客はチャイムを連打し、ドアまで叩き始めた。布団をかぶって抵抗する可憐。だが今日の相手は相当なツワモノ。チャイムとノックを同時に行うという荒業で、可憐を玄関へと引きずり出した。  ドアを開けるとそこには1人の少年が立っていた。 「こんにちはー! 天使可憐さんにお届けものです」  可憐は寝ぼけていたが、持ち前の頭の回転の速さで、その少年の嘘をすぐに見抜いた。  今やっているゲームアプリに出てくるようなファンタジックな出で立ちに加え、ここ半年何もネットショッピングはしていない。さらに、お人好しの父が可憐に荷物の受け取りを頼むこともなかったからだ。 「間違いじゃないですか? うちは何も……」 可憐の目つきがきつくなる。 「いえ、あなたで間違いありません。あなたが失くしたものを、お返しに来ました。はいどうぞ」 少年は薄い茶封筒を可憐に手渡した。 「失くしたものなんて……」 きつい目つきのまま、茶封筒と笑顔の少年に視線を行ったり来たりさせ、恐る恐る受け取った。  茶封筒を裏返す。と、そこに書かれていた文字で可憐の眠気は一気に吹き飛んだ。 「天使愛」  何度も読み直したが間違いない。母の名前だ。 「ねえ、これどういう――」  可憐が視線を少年に戻すと、もうそこに少年の姿は無かった。
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