0人が本棚に入れています
本棚に追加
【あの日失ったもの】
高く登った太陽が、誰もいない静かなキッチンを照らしていた。
『食事だけは取るように。父より』
そう記された手紙と不格好なおにぎりが3つ。テーブルの上に佇んでいた。
天使可憐は、自室のベッドに寝転がり天井を見つめてため息をついた。連続不登校記録は今日で1年になる。
可憐の母、天使愛が亡くなったのは、可憐が高校1年の秋頃だった。以来、父との仲も険悪になっていき、今日に至る。
小学校から成績優秀で、周囲からも将来を有望視されていた可憐には分かっていた。本当は誰も悪くないということを。
母の病気は分かった時点で施しようがない状態だったし、父は仕事の合間を縫ってずっと母のそばにいた。それなのに……。
誰かのせいにしないと心を保てなかったのだ。母が亡くなったのも、そのせいで学校に行く気がなくなったのも、全部父のせいにした。
お人好しである父はそんな可憐に文句を言うこともなく、すべてを受け入れた。だがそんな父の態度でさえも、可憐を苛立たせた。
最初のコメントを投稿しよう!