三幕 人間以上に人間らしい

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「この能力が君の力になったようで嬉しいよ。不思議とこの珈琲店みたいな小屋には僕の力が生かせるような人ばかり来るからね。といっても、君は小屋付近で倒れているのを偶々見かけたんだかけど」満足そうな青年に、私は記憶の中の初めて瞳が映した青年の姿を重ねてーー全く異なっていることに気付いた。雪よりも白いはずだった肌は年相応に赤みを含み、整った輪郭が面白いように形を変えていく。  なにが妖しさだ。不気味でも、人形でもない。呪いを掛けられた青年は人間以上に人間らしい。  ーー恐かったのか?  人の心を覗いて、人間が恐くなっていたのかも知れない。頭の中で勝手に容姿を歪めていたのだ。それほど私は人間に対し恐怖を覚えーーそしてまだ、両親も兄も弟も学校の教師も悪友達にも恐れを抱いている。 「あなたは恐くないのか? 人間が」  気づいたら私は訊いていた。  人の心が読めてしまうことはとても残酷なものだと分かってはいるが、やはり心が読めないことも残酷なのだ。表面上のものしか瞳は映さないのだから。  なら、内面的なものまで映してしまう彼は人間が恐いのだろうか。私だったら、確実に恐いと答えるだろう。たった一時的な体験ですらそう思ったのだ、当然、青年も恐いと答えるだろう。  青年は少し考える素振りをしたものの、答えるのにそう時間は掛からなかった。 「確かに恐いよ」  しかし、それは私の予想していた答えと少し違っていた。青年は珈琲を口に含み、懐かしむような目をした。 「この小屋、珈琲店に訪れた人の中に作家をしていた人がいてね。彼は僕の能力を聞いた途端、僕がどういう人生を歩んできたのか聞いてきたんだ。驚いたよ、みんな可哀想な顔したり変に同情するのに、彼だけは強い好奇心を持っていたんだ。彼は僕の心を読めないのに、心を読める僕を恐れず小説の題材にまでしてしまった」  珈琲を飲み干したのち、青年は私をじっと見つめた。 「君のように考えを変えてくれた人だって、感謝してくれる人だっているんだ」  きっと、恐いだけじゃないよ。  人間以上に人間らしい青年はそう言った。
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