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「あれを見せたのはお前なのか?」
青年は口角を微かに上げ御名答と静かに告げた。長い息をつき一つ大きく伸びをして、青年は重くなった空気を払うように提案する。
「話はその珈琲を飲んでからにしない?」頷いて口にした珈琲は信じられないほど苦くて、私はカップを青年に押し付けた。苦かった? と、青年は私の心を言い当てた。
◆
青年の切り出しは妙なものだった。
「僕には人の心が読める」
六色の正方形が混ぜられたルービックキューブを見もせずに完成させると、青年はそれを私に渡した。
「一時的にだけど、君にしたみたいに人に人の心を読ませることもできる」
俄に信じられる話ではないが、ここで話を止めるべきではないと思い口を閉じていた。青年は話を続ける。
「世間はこれを超能力と呼んだが、僕に言わせれば呪いだ。この呪いのせいで両親に売られ、狂った科学者には追い回されてこの小屋まで逃げてきたんだ。人の心なんて読めないに越したことはない」君が身をもって体験したようにね、と付け足した青年の表情は寂しさで滲んでいるように映った。
本当にそうだろうか。
確かに普通の、何の負いも無い人間からすれば人の心を読めることは不幸に繋がるだろう。しかも永遠という絶対的で迷惑な条件が付いている。言うなれば……うむ、正しく呪い。
しかし人に人の心を一時的に読ませることに関してはそうと言えるだろうか。私はそれで気付けたのだ。あの日の周りの目は、期待や羨望なんかじゃなくただの呆れだったということに。
散々たる暴挙の数々を思い返すと、火照った顔にゆっくり恥ずかしさが滲みる。だからさっき、私は私を醜く映したのだろう。
一番不甲斐ないのは、恐らく青年の曰く呪いを掛けてもらえなければ私はずっと気付かなかっただろうということだ。ある意味、人に自らを自慢してきた私とは真逆の人の心を読んでしまう青年にその根元を照らしてもらったのだ。歳上とは言え、申し訳なさと感謝の気持ちが募る。
「……やっぱり、俺は呪いなだけじゃないと思うよ。まぁ、今までの人生ずっと付き合ってきたあなたに言えることじゃないけど」私が頭を掻きながら伝えると、青年は目を見開いた後、安堵したように笑った。
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