51人が本棚に入れています
本棚に追加
それからはかなり慌ただしく、領のお父さんの人脈を突破口にして職人さんとの関わりを持ち、話を聞いてもらった。
最初は難色を示したり、怪しんでいた職人さんたちも、何度も何度も尋ねることで口説き落とすことができた。
藁にも縋りたい思いだから、頼んだよ、って言われたときは、気を引き締めなきゃって思った。
ネットを使って消費者と職人を結びつける。
正直俺も、オーダースーツは年配の人やお金持ちばかりが買うものだと思い込んでいた。
でも実際は、若い人もオーダースーツに興味を示していることがわかった。
社会人になるのに気合を入れるため、とか、お祝いに、とか。
一年経つ頃には、かなり安定して収入もあるし、何より俺自身が、この仕事が楽しくてしょうがなかった。
大学との両立もきつい部分はあったけど、定期的に職人さんに会いに行く度にありがとう、って言われるのが本当に嬉しくて、やめられないなって思った。
領と飲みに行った時、ぼんやりと考えていたことを話してみた。
「今さ、上手くいってる実感はあるんだけど、常に新しいことをしないと、進化しないってことはその先には退化しかないって思うんだよね」
領は驚いたように俺を見てる。
「もっと新しいことしたい。そうだな、例えば、職人になりたい人と職人さんを結びつけるとか、テキスタイルの企業と、職人さんを結びつけるとか。実現するかどうかわからないし、俺が何となく考えてるだけなんだけど」
「翠漣、なんかキラキラしてるね。俺嬉しい。やろう。やりたいって思ったこと、全部やってみよう。」
領といると、自分ではできないことが、できるような気がしてくる。
あの時俺を誘ってくれて、俺は確実にこいつのおかげで変われたと思う。
感謝してる。本人には、恥ずかしくて言えないけど。
最初のコメントを投稿しよう!