インデペンデンス・デイ

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暗闇の中ソファに腰を下ろし、もう一度ビールに口をつけようとしたそのとき、電話の着信音が聞こえてきた。  彼はギクリとした。鞄の中で、けたたましくスマホが鳴り響いている。恐る恐るそれを取り出すと、発信先を確認し、手の内でしばらく鳴らしっぱなしにしておいた。  それとも、放り出してしまおうか?  結局、彼は観念して電話に出た。 「……もしもし」  控えめにそう言ったとたん、大原の空元気な声が、電話口の向こうから聞こえてきた。 「おお、滝本か? 久しぶり……いや、何ヶ月ぶりかな?」 「……」  鼻を一度、軽くすすった。そして何も答えずに黙りこんだ。持っていた招待状を、テーブルの上に放り投げる。 「お前んとこにも、来てただろ? 堂島の招待状」  彼はこれみよがしに、大きくため息をついた。電話口の向こうの大原は、すでに彼のその様子から、十分に何かを察している様子だ。  二度ほど大きく咳払いをすると、その音が暗闇の中に響き渡った。飲んだばかりのビールが、ぬるくなって喉の奥から口の中に少し戻って来る。彼は軽くえづくと、そのまま俯いた。  堂島孝平というのは、大原を含めた彼の大学時代の、友人の一人だ。  仮にもし、堂島をかつての「親友」と言う言葉で表現したとしても、彼はそれを別に不自然には思わないし、ことさら異議を唱えたいとも思わない。   むしろ、進んで認めるだろう。確かに堂島は、自分の「親友」だった、と。  その堂島とは、大学を卒業して以来、一度も顔を合わせていない。それからは音信不通のまま、かれこれ十年以上が経ってしまっている。 「……でほら、良かったら、俺と一緒に行かないかな、と思ってさ。それで電話してみたんだよ」  ひどく遠慮がちに、電話の向こうの大原はそう言った。
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