インデペンデンス・デイ

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彼は何も答えないまま、ただビール缶のプルトップを指で弾いて、パチッ、パチッと繰り返し、音を立てた。    ……おい。もう十年以上前の話じゃないか。  何をいまだに、こだわってるんだ? みんな若かった。ただ、それだけのことだ。  彼のその長い沈黙で、さらに察するところがあったのか、電話の向こうの大原も、それ以上彼を刺激しないよう、口を閉ざしている。 「まあ、とにかくさ。お前と堂島の間で、あの子のことでいろいろあったのはわかるけど……」 自分の前で平然と、当時のことをそう口にできるのは、たぶんこの大原だけだろう。彼はそう思った。 「わかるけど?」 「いや、やっぱりおまえは、行かなきゃダメなんだと思うよ」  その日一日の仕事の疲れも相まってか、暗闇の中で一人ソファに持たれ、体の力を抜き、うっすらとしたビールの酔いにまかせてじっとしていると、全身がまるでバターのように溶け出してゆくような、そんな感覚にとらわれてくる。そのまま深く、眠り込んでしまえそうだ。 「だって堂島とは、あれだけ仲よかったんだしさ。お前にとっても、きっといい区切りになるんじゃないのかな」 「あのさ」 「……ん?」 「その、堂島の相手の敦子、って人は、一体どんな人なのかな」  と、途端に大原は、ここぞとばかりに声を明るくさせて言った。 「お、そうか? 行く気になったか?」  いや、まだだ。 彼が静かにそう答えると、まったくもう、という嘆きの言葉と共に、大原の舌打ちが聞こえてくる。 「お前はほんと、昔っからそうだよ。変に潔癖っていうか……」 「そんなことはないよ」
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