インデペンデンス・デイ

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インデペンデンス・デイ

          1    会社を出た頃には、もうとっぷりと夜が更けていた。  滝本修一は、駅前で同僚と別れると、電車を乗り継いで自宅のある代々木上原まで帰った。  コンビニ弁当の袋を下げ、足取り重く、マンションの玄関ホールに入る。  オートロックを開け中に入ると、何の気なく、郵便受けに手を突っ込んだ。ほとんど条件反射的に、いつもすることだ。  するとそこに、何か違和感を覚えるような、そんな感触があった。  しばらく探ってから取り出してみると、ヨガスタジオやピザ宅配のチラシにまぎれ、一通の大ぶりな郵便物が入っていた。  彼はぼんやりと、そのバラの薄い浮き彫り模様の入った、白い封筒を眺めた。 それは結婚式の招待状だった。差出人の名前には、堂島孝平・敦子、とある。  彼はしばらくの間、何も考えることができなくなった。 途端に腹の中に、何か重く、黒々としたものが、徐々に徐々に溜まっていくような、そんな感覚を覚える。 その後いわく言いがたいような感情が、静かな波のようになって、繰り返し彼を襲った。  いつもはエレベーターを使って、三階の自分の部屋まで上がるのだが、彼はわざわざ非常扉を開けると、外の階段に出た。  その日は季節外れの肌寒い日だった。風もとても冷たく感じる。そんな中を、彼は一段ずつ、音を立てながらゆっくりと鉄筋の階段を上がっていった。  ひどく困惑する頭の中を、そうすることで、どうにか整理するつもりで。  長い時間をかけて、ようやく三階にたどり着いたころには、雲間から明るい三日月が顔を覗かせていた。 自室の部屋のドアの鍵を開け、中に入った。寂しげな暗闇が、いっぱいに広がっている。空気も微動だにしない。  それはまあ、いつものことだ。  彼は部屋の明かりもつけず、まずはキッチンへと向かうと、音を立てて冷蔵庫を開けた。中から缶ビールを取り出すと、庫内のオレンジ色の薄明かりのもと、暗闇の中でプルトップを開け、急いで一口啜る。  ようやく、それでひと心地ついたような、そんな気分になった。
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