隣にいるだけで

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 だから、あの時まで言えなかったのだ。視力を失い、自分の役目が終わりに向かっていることを悟るまで。  朱雀は自分の御霊としての力が強まったから、白虎の視力が消えようとしているのだと考えていた。でも、現実は違う。  朱雀が一度は早良親王として抱いた恨みを認めたからこそ、白虎の視力は消えてしまったのだ。もうすぐ、彼は一つの魂に戻る。そう解ったからこそ―― 「あなたを慕う想い、それはあなたが想っている以上です」  あの時、不安そうな朱雀に、いや早良親王に告げた言葉に、嘘偽りはない。 「はあ」 「君は溜め息以外を知らないのかな?」  本日何度目になるか。もう忘れかけたくらいに溜め息を吐く安倍晴明に、師匠であり陰陽頭である賀茂保憲が笑顔で訊いてくる。もちろん、本心は果てしなく怒っている状態だ。それが解るから、晴明は思わず直衣の袖で口を押さえた。 「よろしい。君の肩にこの都の命運が掛かっているんだ。面倒だの何だの言わないようにね」 「はあい」  間延びした晴明の返事に、保憲はよりにっこりする。やばいやばい。逆鱗に触れる一歩手前だ。 「ちゃんとやってますよ。御霊を慰撫し、正しい場所に還す。それが役目ですから」 「そうそう。常にその心構えでね」
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