隣にいるだけで

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 にっこり笑って、保憲は別の仕事をすべく去って行った。陰陽寮の中、否応なく漂う緊張感に、晴明はまた、こっそり溜め息を吐く。 「俺の選択って、間違ってたかな」  能力を持て余し、生きていくには陰陽師になるしかない中、彼、賀茂保憲に出会った。当時はあんなに腹黒いとは知らなかったが、同じ匂いを感じ取っていた。 「あなたの弟子にしてください」  この言葉を告げたのは、正確には保憲の父である忠行だったが、目線は保憲に向いていた。それを保憲も気づいていただろう。  晴明が陰陽寮の天文学生になると同時に、保憲は正式に自分の弟子としたのだから。 「俺の隣にいろ。お前に、ふさわしい場所をやる」  にっこりと笑って告げられた言葉。その自信満々の言葉が嘘でなかったことは、晴明が陰陽寮に入って2年目には証明された。保憲が陰陽頭になったのだ。まさに大抜擢だった。 「お師匠様が、あんなに政治能力があるとはねえ」  必要な書類を書きながら、晴明はぶすっと膨れる。必要な場所。ふさわしい場所。それは、能力を隠すことなく、能力を存分に使っても嫌がられない位置に行くということ。  晴明が狐の一族の血を引き、そして今や頭領として彼らの諜報活動を束ねているように、保憲にもそういう一族が後についている。
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