15人が本棚に入れています
本棚に追加
それは賀茂という名字が指し示すもの。つまり、保憲もまた、服わぬ民の血を引くということ。
「でもねえ」
あそこまで出来るのか。諜報活動の能力やそれに必要な身体能力の高い晴明だが、いやいや無理でしょと思う。保憲は特別だと、今でも思う。
「俺は、あなたの傍にいられれば、それでいいのに」
陰陽頭になるまでは、要らない。そう思っていた。けれども、朱雀にまつわる事件が起き、そうも言っていられなくなった。
「ひょっとして、朱雀ってお師匠様と組んでるの?」
そんな疑問まで出てくるほどだ。
「晴明。また休憩しているね」
「いいえ。滅相もございません」
そこに、戻ってきた保憲が笑顔で断言してくる。ああ、怖い怖い。でも、それが心地いい。こんな風に正面から接してくれるのは、保憲しかいないから。
「何を笑っているんだい?」
「いえ」
顔が緩んだ自覚のあった晴明は、すぐに下を向いて書類仕事を再開した。
あの日、戻り橋で彼に出会わなかったら、どうなっていただろうか。朱雀はこの頃、よくそんなことを考える。
早良親王としての生を終え、御霊として残った魂と分離してしまった自分。そんな朱雀が選んだのが安倍晴明だった。
最初のコメントを投稿しよう!