隣にいるだけで

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 それは賀茂という名字が指し示すもの。つまり、保憲もまた、服わぬ民の血を引くということ。 「でもねえ」  あそこまで出来るのか。諜報活動の能力やそれに必要な身体能力の高い晴明だが、いやいや無理でしょと思う。保憲は特別だと、今でも思う。 「俺は、あなたの傍にいられれば、それでいいのに」  陰陽頭になるまでは、要らない。そう思っていた。けれども、朱雀にまつわる事件が起き、そうも言っていられなくなった。 「ひょっとして、朱雀ってお師匠様と組んでるの?」  そんな疑問まで出てくるほどだ。 「晴明。また休憩しているね」 「いいえ。滅相もございません」  そこに、戻ってきた保憲が笑顔で断言してくる。ああ、怖い怖い。でも、それが心地いい。こんな風に正面から接してくれるのは、保憲しかいないから。 「何を笑っているんだい?」 「いえ」  顔が緩んだ自覚のあった晴明は、すぐに下を向いて書類仕事を再開した。  あの日、戻り橋で彼に出会わなかったら、どうなっていただろうか。朱雀はこの頃、よくそんなことを考える。  早良親王としての生を終え、御霊として残った魂と分離してしまった自分。そんな朱雀が選んだのが安倍晴明だった。
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