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桜色に染まる
「ありがとうございました」
「ごちそうさまでした」
「またお待ちしております」
いつものビアホールで、お決まりの文句を聞きながら、そそくさと財布をバッグに仕舞って出て行こうとすると
「あ。お客様」
と、レジから顔を上げた男性店長が呼び掛けた。
「イヤリング、落とされたんじゃないですか」
「え?」
店長は自分の右の耳を指す。
触れてみると確かに耳たぶの感触しかない。
「さっきは、してらっしゃいましたよね。席で落とされたのかな……」
わざわざ戻ってくれる店長にわたしは慌てて言った。
「あの、いいです。大丈夫です!さっき駅の300円ショップで買ったのだし」
振り返られて、しまった、と思った。
これだから、仕事帰りの女の一人客の酔っ払いなんてみっともないから、ボロが出ないように気をつけてたのに……。
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