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この辺り、僕が住む神大寺の近辺は、昭和の頃市営住宅が建ち並び、市からの許可がなかなか下りず、家を建てることが出来なかった。しかし僕が20歳になった年に市の許可が下りて近所は一斉に家を建て直し、横並びに10数件の市営住宅が、次々と新しい家に変わっていくのを見ていた。
しばらくすると建て直してないのは僕の家と横の今井さんだけだった。我が家は僕が結婚するときに建て直すといい、将来的にお嫁さんの希望も取り入れて2世帯住宅にしたいと言っている。結婚どころか相手も見つかってない僕にはまだまだ先の話になる。
おとなりの今井さんはおじいちゃんの独居である。おばあちゃんは10年以上前に、そして子供達は独立し、おじいちゃんの独り暮らしも長いが頭も身体もまだまだしっかりはしている。そんな今井のおじいちゃんにビックリする出来事があった。
ある日ガーデン商店街を歩いていると、今井のおじいちゃんを見かけた。バス停に立っている。これから駅にでも行くのかな? と思って声をかけた。
「こんにちは。どこかお出かけですか」
「あぁ…うん。ちょっとね」
大したことを聞いてないのに口をモゴモゴさせていた。では…と会釈して立ち去ろうとしたときおじいちゃんがカバンから冊子を出して見せてきた。
「これよー、ここの場所っていいかね?」
何の冊子かと見てみると、ブライダルの冊子が複数あった。
「どうしたんですか? 息子さんって結構前に結婚されてましたよね?」
と咄嗟に言ってしまったが、もしかしたらいつの間にかバツイチになってて再婚するからか?
一瞬失礼なことを聞いてしまったと思って焦った。
「いやいや違うよ、息子はバツはついてないで何とかやってるよ。これはオレんだよ」
フハハハ…と皺を寄せて笑っていた。
……え?
「今井さん、結婚ですか?」
「おぅ。これが最後の結婚式だからどこがいいか悩んでてなぁ」
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