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会場はこじんまりとした少人数の部屋で、円卓が5つ、ざっと見ると各席5〜6人。親戚と思われる何人かは座っていて、歳からいって子供の家族なのだろうな。僕は席次表を見ながら自分の席を探す。参列客も続々と来るが、杖をついた人、腰の曲がった人、歳相応の方々が広間に入ってくる。どういう繋がりのある人達なのか気になるところである。
こんな年齢層が高い披露宴なんてこのホテルでもそうはないだろう。
その時は刻々と近づいてくる。初めて体験する80代の披露宴。僕はどんな披露宴になるのだろうと、面白そうな雰囲気を感じ取った。
そしてスタッフからのアナウンスが流れる。
「それではまもなく開宴となりますが皆さまにお願いがございます。携帯電話はマナーモードに設定くださいますようお願い致します。途中でご気分が悪くなったり御用がございましたら近くにいるスタッフにお声掛けください」
参列者があちこちでカバンやポケットから携帯を出しマナーモードに切り替えている。
70代80代でもスマホを使うなんてさすが現代をきちんと把握していてスゴイなと思った。使いこなしてる感が凄い。
スタッフの説明が終わり、マイクは司会者へと渡された。
「はいー、皆さまこんにちはー。本日は今井家、赤坂家の結婚ひろーえんに起こし下さいまして、誠に有難うございます。えー、楽しいひろーえんになるよう皆さんで盛り上げていきましょう。宜しく、お願いします!」
……しばらく沈黙し、再度視線が司会者に集まる。
「あぁ失礼しました。わたしの紹介をしてなかったのでーすみません。今回司会進行をします神大寺自治会長の伊藤と申します。どうぞよろしくお願いします」
参列者から大きな拍手が送られた。そして自治会長は手元のメモを読みながらマイクを持ち直した。
「それでは早速ですが、新郎新婦の登場です、盛大な拍手をどーぞ!」
華やかな音楽かと思いきや、琴の音色のような静かな曲が流れた。まるで正月のよう。
大勢の拍手で迎えられた新郎新婦は手を繋ぎ、新婦はさすがにドレスではなく着物で登場した。静かな曲の中でひときわ大きな声のしゃがれた声で〝おめでとう、おめでとう!〟と歓声があがる。
照れくさそうな2人は拍手に導かれ、いい顔で客席の間を縫うように歩いていた。
「ではー、新郎新婦の紹介を…いたします。まず…新郎の今井徳三郎ですがー、今から84年前に産まれました。わたしが85なので1個後輩ですね」
年配者から笑いがこぼれる。
「それでまぁ、通常は経歴を話すところなんだけどー、私たちは過ごした年月が長いんでさぁー。過去のことは忘れてることもあって、今井くんとも話してそこは省略しようということにしました。だから最近の話をします」
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