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「地方を回るのも、劇団の人たちと寝起きするのも、大変だったが、楽しかったぞ。
どんな経験も今に役立っていると信じている」
そこで、ふと、気づいたように、准は言った。
「そういえば、俺が縁起のいいものにこだわるのは、ばあさんに聞いた話のせいだけじゃなくて、あの頃のことが頭にあるのかもな」
劇団員のみんなと寝起きしてた頃の、と准は言う。
「役者なんて、浮き沈みの激しい商売だから、みんな、すごく信心深いし、縁起のいいことをありがたがるんだ。
朝起きたら、必ず、神棚に向かって、手を叩いたりな」
葉名、と肩を叩かれる。
「お前は俺の初恋の人……ではないが」
ではないんだ……。
「子どもの頃も出会っていたとは、これもまた運命に違いない」
「いや、今私が言わなきゃ思い出さなかったんだから、なにも運命じゃないですよね?」
そういえば、ガジュマル買ってきたんですよ、と葉名は、妙な運命に巻き込まれないよう、話を打ち切り、立ち上がる。
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