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“まい”様とは、どなたのことでしょうか？
奥様のお名前は“恵梨香”様。寝言で奥様のお名前をお呼びになったわけではありません。それに「まい」と聞いた時の奥様は、これまで旦那様に向けられていたものとは全く違う恐ろしい形相で旦那様を睨まれたのです。
この時のことを考えていると、私の中である疑念が沸き起こりました。
事故当時、本当に旦那様はお一人だったのでしょうか？
私が雇われる前のことですし、地方での単独事故とのこと。この仕事を紹介してくれた知人も、ご近所の方も、事故については詳しく知らないとのことでした。
「石崎さん、どんな感じ？」
奥様が台所に来られました。
「奥様、ちょっとお味見してくださいますか？」
まだ煮込み途中の筑前煮から、小さな鶏肉と牛蒡を食べていただきました。
「美味しいわ。石崎さんは、料理が上手ね」
奥様はお美しくお優しい方で、私にもとてもよくしてくださいます。そして、旦那様をとても愛していらっしゃる。それは間違いないと思います。
ですが私は、時々考えてしまうのです。
もしも、旦那様のお話が真実だったとして、事故の時、旦那様のお隣にどなたかがいらっしゃったとしたら……。
事故でお亡くなりになられたのはどなたで、今の奥様はどなたなのでしょうか？
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