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「……先輩」
しばらくして、おずおずと出て来た有川は、帽子とワンピースと通学用のスニーカーという、どこかチグハグな、しかし、"女子"の格好で、
「この格好かなりダサい」
と泣き腫らした顔で、恥ずかしそうに言った。
「何なんですか?この帽子……。このワンピースと完全に合ってないです」
「悪かったな」
「先輩、自分はカッコイイのに、女子のファッションには疎いんですね……。この格好でうろうろするのも結構勇気要りますよ?」
悪態をつきながらも、有川は嬉しそうだった。
有川は、帽子を触りながら、
「……髪、ショートカットの女の人もたくさんいるって思い込もうとしたんですけど、やっぱり……」
と、呟いた。
「……ああ」
「早く高校生になりたいな……」
有川のその言葉は切実だった。
高校という場所が良いものなのかどうか、まだルアンには分からなかったが、あの地獄のような中学よりマシなのは確かだった。
「……で、ポーチはもういいのか」
「こんな顔で、あんまり出歩きたくないんで……。今日はメイクもしてないし……。また今度、探します」
「そうか」
有川にはやはり、チグハグだろうが、女子の格好の方がしっくりきていた。
「あの、先輩、ありがとうございました」
有川は、脱いだ学ランを腕にかけたまま、改まってそう言った。
「別に。……負けるなよ」
ルアンのその言葉に、有川は少なからず驚いた。
ルアンにそんなことを言われたのは初めてだったからだ。
「先輩も」
それはルアンも同じだった。
「ああ」
「じゃあ、また」
有川のぎこちなく帰っていく姿を見ながら、ルアンは、どこかくすぐったい気持ちになっていた。
暗雲垂れ込める世界の中に、一条の光を見た気分だった。
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