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一人になると、今日あった出来事についての様々な感情が、自分の体に落とし入れられ、押し寄せてきた。
そしてルアンは改めて、自分の容姿を呪っていた。
「……先輩」
ルアンが沈んだ気分で駅に向かって歩いていると、ふいに背後から、聞き覚えのある声がした。
振り返るとそこにいたのは、さっきルアンが見た通りの、短髪で、化粧もせずに学ランを着ている、有川だった。
ルアンが驚いて、
「お前、やっぱり、さっき」
と言い終わらないうちに、
「はい、すれ違いました。やっぱり気付いてました?」
有川の喋り方や、声の発し方は何ら変わっていなかったが、それが"男"の見た目から発せられていることは、違和感でしかなかった。
「こんな格好で出歩かなきゃならないの、地獄ですけどね~」
ルアンにとって、有川がそんな格好をしていることは、自分が差別を受けたことよりもショックだった。
しかし、どうしてそんな格好でいるのかと訊ねる前に、ルアンの口からついて出たのは、
「……お前、そんな顔してたのか」
「そうですよ、知りませんでした?でも、すっぴんなんで、あんまり見ないでください」
有川はルアンの視線を遮るように、自分の腕で自分の顔を隠してみせた。
「それより、先輩の方こそ、その髪いいですね」
そういえば、有川とも金髪にしてから会うのは初めてだった。
「あぁ、でも、もう……」
元に戻そうかと思っている。
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