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再開発に伴い、その地域では労働者が不足していた。派遣社員であった彼もまたその地域の仕事を割り当てられた。彼は当面の仮住まいとなる部屋を探すが、どこの貸部屋、借家も借り手がすでについてる。考えることは皆、同じということだ。
仮住まいの住居を探して、何件目かの不動産を尋ねた。彼はそこで、ある貸部屋を紹介される。築二十年のアパートの一室であった。築二十年といえば、それなりの年数が経っている。当然、そんなにいい部屋ではないだろうと、彼は期待していなかった。
どうせ、仮住まいなのだから一時的に住めればよい。
ところが、いざ紹介されたアパートの部屋を見せられると、内装は意外にも綺麗なのだ。まるで、何年も人が住んでいないかのように。
部屋を見せられた彼の感想はある意味、正しかった。その部屋は、彼が思った通り過去、二十年の間に入居した人は数えるほどしかいなかった。それも、片手でだ。一回に長く暮らしていたという訳でもない。暮らしていたのは、やはり彼と同じ派遣労働者だったり、短期的な暮らしを望んだ人。この場合、部屋が空いていた期間の方が、誰かが暮らしていた期間より長いくらいだ。
どうして、その部屋はそんなに空きが長いのか。再開発ともなれば、部屋はどんどん借りられあっという間に部屋数も足りなくなるというのに。この部屋だけは、最後まで残されていた。
アパートの大家に理由を聞くと大家は渋々、その理由を彼に語って聞かせた。
二十年前、まだこのアパートが建ったばかりの頃である。それ以前は、自衛隊や警察関係者が爆発物を処理する為の荒野が広がっていた。もちろん、荒野に爆発物など残されていない。二十年間もアパートがそこに在り続けるのも証拠であった。爆発物は残されていないはずだった。
ところが、事件は起きてしまった。その部屋で暮らし始めたばかりの青年が変死した。それも、ただの変死ではない。四肢がバラバラになった状態で見つかった。部屋の中もグチャグチャにされ、まるで爆弾でも使われたかのように。
男は話を聞き、子供の頃にテレビでそのようなニュースをやっていたことを朧気ながら思い出す。そんな事件も確かにあった。
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