〇現在

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 当時は爆弾テロかと騒がれたが、室内に爆発物はなく青年がテロ組織に関わっていたという証拠もなかった。結局、青年の死因は分からないまま事件は迷宮入りとなった。  恐ろしい怪事件が起きた部屋である。誰も積極的に住みたいとは思わない。部屋は早々に改装されたが、住む人はほとんどおらず今に至った。  当然、彼はそのような話を聞かされては住む気にはなれない。それでも、四の五の言ってはいられなかった。家賃も安く、部屋は新居そのもの。仕事場にも近く条件は良好だった。一度でもこのような良物件を見せられた後では、そのような物件も劣って見える。  幽霊や呪いなんてない。気にしなければ、これは間違いなく素晴らしい部屋だ。彼はそう自分に言い聞かせることで、部屋を借りることを決めた。  幸い、部屋を借りてから数日。変事も悪事も起きなかった。初めこそ、何か起こるのではないかと緊張していた。だが、暮らしてみればなんてことはない。普通の部屋である。むしろ、部屋が綺麗な分、毎日が良い気分で過ごせていた。  これを格安で借りられた自分は本当に運が良かった。  しかし、暮らし始めてから半月ばかりが過ぎた頃、何の前触れもなく異変は起きた。  仕事に疲れ、部屋でゆっくりテレビを眺めていた。外は夜だというのに、工事はまだ続いている。テレビの音量を少し上げ、テレビを見ていると、急にテレビが映らなくなった。画面には“電波が受信できません”という文字が表示された。  いったい、何が起きたというのだ。彼は不審に思い、外に出てアンテナの様子を見ようとする。  その前に別な異変に気付いた。  静かだった。あれだけうるさかったはずの工事の音が鳴り止み、妙な静寂が生まれた。  慌てて、外に飛び出すと、そこには信じられない光景が広がっていた。  自分の目でもおかしくなったのだろうか。目を閉じたり、開いたりを繰り返したり、ほっぺをつねってみたりもした。  夢ではない。ならば、これはいったい、なんだというのだ。アパートの目と鼻の先では高層マンションの建設中だったというのに、それが跡形もなく消えていた。マンションだけではない。再開発中も建物が全て消えていた。どんなに周囲が暗いといっても、あれだけ煌々と輝いていた街並みの灯が一瞬にして消えただなんて。
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