〇未来

2/3
前へ
/9ページ
次へ
 博士は以前より、タイムマシンの研究に取り込んでいた。時間を旅することは人々にとって、永遠の夢であり一度は体験してみたいことであった。博士もそんな人類の夢に思いを馳せた一人であった。  長いことタイムマシンの研究を続け、ようやく完成の一歩手前までこぎ着けることができた。  なぜ、完成の一歩手前なのか。それには、タイムマシンに大きな欠点があったからだ。  人々が理想とするタイムマシンは“時間移動機”であると同時に“空間移動機”でもある。その両方を達成できてこそ、完璧なタイムマシンと呼べた。ところが、博士が造ったタイムマシンは“時間移動機”ではあったが、“空間移動機”としての機能はなかった。  簡単に言ってしまえば、トコロテンの突き出しと同じだ。空間をトコロテンに例えれば、未来から過去に向かえば、過去のその場にあった空間がそのまま、更なる過去に飛ばされる。  博士は“空間移動機”としての機能を完璧なものにしようとしていたが、どうしても、それだけが出来なかった。一度でも過去に飛べば、その欠けた機能を補うことはできる。だが、それには欠点を抱えたままの移動をしなくてはならなかった。  不幸というべきだろうか。博士が住んでいた街は二十年前に大きな再開発がなされ、街並みが大きく変わってしまった。そんなところで、タイムマシンを使えば過去に大きな影響を与えてしまう。過去に着いた途端、見知らぬ建造物と機械が出現したと大騒ぎだ。過去の文献を遡ってみても、そのようなことが起きたという記録はなかった。  タイムマシンにつきまとうタイムパラドックスである。タイムパラドックスを引き起こすことなくタイムマシンを起動できなければ、何が起こるか分からない。パラドックスは起きない方がいいに決まってた。  博士は不動産を渡り歩いて、影響が少ない場所を探した。大きく変貌した街並みにそのような場所はないだろうなと半ば、諦めかけていた時、博士は見つけることができた。  再開発の中、そこだけは時間に取り残されたかのように築四十年という古いアパートを見つけた。しかも、そのアパートが建つ以前は自衛隊や警察が爆発物の処理を行うのに使っていた荒野があっただけだという。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加