遠出はお好きですか

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家に帰ると、イリスはまだ帰っておらず、リックが本を読んでいた。 「おや、今日は早いですね。おかえりなさい。」 「ただいまです。何を読んでいるのですか。」 「軽い読み物ですよ。この国の王族がどの様に繁栄してきたかを綴った歴史譚です。」 「それ、絶対軽い読み物じゃないですよね。」 「ははは、まあ読む人が変わればそう捉える人もいますかね。しかし、この本はそれほど難しくはありませんよ?これを読めば読むほど、現国王は変わり者と呼ばれるのもうなづけます。」 「国王って変わり者で通ってるんですか?」 「ええ。これまでの王族は皆、急進的な国家繁栄を目指し、侵攻と徴税、徴兵に力を注いでいましたが、現国王はその真逆で、国の内側にある腐敗や民からの不満を改善することに尽力していますからね。王族、貴族の中では臆病者だとか、威信の無い王だとか、そんな風に言われているようですよ。この本の著者もそちら側の人間なのでしょうな、現国王を批判するような内容がちらほら伺えます。」 「その話を聞くだけだと、今の国王の方がまともに思えますけどね。この国が平和なのも国王のおかげみたいなものでしょ?」 「それこそ、ものの見方ですよ。平和を喜ぶものも多いですが、戦争をしている方が嬉しい人間もいるのです。例えば武器商人や傭兵団などね。彼らは平和であればある分だけ職を失うのです。」 「同じ平和という結果でも、見る人が変われば、意味合いも大きく変わるってことですか。」 「ええ。その通りです。私は今のこの国が気に入っていますが、そうでないものも多い。そういった者たちと、肩を並べてわかり合える日が来れば良いと切に願うばかりです。」 リックは本を閉じると、夕食の仕込みに取り掛かり始めた。俺は机の上に置かれた本を手に取りながら、さっき聞いた旅人の言葉を考える。 人喰いマノン。旅人たちはマノンの何を知っているのかわからない。でも同様に、俺達の知っているマノンの姿を旅人たちはきっと知らない。それこそものの見方ではないだろうか。俺は俺の知っているマノンを理解していればいい。マノンなら、大事なことはちゃんと話してくれるだろう。 ボーッと考えていると、イリスが帰ってきた。後ろにはマノンもいた。
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