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「…静かだな。」
冷たい風と、夜の静寂のせいか、ゆっくりと時間が流れているような感覚になる。定期的に、索敵をかけてみるが特に反応はなく、ただ静かに時間が流れた。
学生の頃、よく一人でキャンプをしていた。一人の時間が欲しかったというより、非日常を求めていたのだと思う。日本での、街中の雑踏に飲まれながらの生活より、自然に溢れた中で自由に暮らしたかった。ここではそれが当たり前で、不思議な気分だ。
「ご苦労さまなのです。」
「…マノンか?」
小声でマノンが話しかけてきた。
「どうした?交代にはまだ早いぞ?」
「いえ、なんだか眠れなかっただけなのです。」
「そうか、無理はするなよ。」
マノンはニコッとして俺の隣にすわった。しばらくお互いに何も言わずに、星を眺めていた。
「ありがとうございますなのです。」
唐突に、マノンが言った。
「何がだ?」
「マノンなんかを、仲間にしてくれたことなのです。本当に嬉しかったのです。」
「そんなことか。マノンの方こそ、俺達に合わせて無理にポーターになったりしてないか。」
マノンは静かに首を横に降る。
「そんなことないのです。マノンは二人と一緒にいられて、それで二人の役に立てるならと喜んでなっただけなのです。」
「そうか、そう言ってくれるとありがたいな。頼りにしてるぞ。」
「えへへ、頑張るのです。イリスにはたくさんお礼を言ったのですが、ソーマ様にはまだ全然お礼を言ってなかったのです。だからお話がしたかったのです。」
「俺にも、様なんていらないよ。ソーマって呼んでくれ。」
「いいのですか?では遠慮なく呼ばせてもらうのです。」
月明かりに照らされたマノンは嬉しそうにしている。
マノンの過去について、聞いてみたい気持ちはあった。旅人の話のこともある。でもそれ以前に、仲間のことはもっとよく知りたい。でも、自分の過去を、日本での生活をどう説明していいかわからないから、どうしても聞くのがはばかられてしまう。
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