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遠出から帰ってきてからは、マノンは私の部屋で寝泊まりすることになった。マノンは、ソーマの朝の稽古を見るのが日課になっていて、ソーマが起きる頃には私のベッドから出て行く。だから私は今日も一人で目を覚ます。
「おはようなのです。」
「おはよう。ソーマは今日も工房に行ったの?」
居間に降りて来ると、マノンがテーブルの上にまな板を置いて、食材を切っていた。きっとリックのお手伝いをしているのだろう。
「はいなのです。なにやら、試作品とやらがもうじき完成するようなのです。マノンの包丁作りは後回しみたいなのです。」
「ソーマは約束はちゃんと守るので、そのうち作ってくれるよ。」
マノンの頭を撫でながら、マノンの横に座る。マノンが切っている食材を見る限り、今晩はリック特製の煮込み料理だろうか。
「お手伝いが終わったら、クエストでも確認しにいかない?」
「はいなのです!ついでに市場でお肉も買うのです。」
「あまり買い食いはよくないわよ?」
「違うのです。リックさんに調理してもらうのです。今日のお手伝いもそのためなのです。」
マノンはリックの手料理がとても気に入ったようだ。確かに、リック料理はおいしい。
「大抵のものなら調理できますから、好きなものを、買ってきてください。それと、イリス。朝食はたべないのかい?」
リックが、キッチンから顔を出した。
「今日はいいわ。市場に寄るのなら、果物か何か買って食べる。お肉以外に何か買ってくるものはある?」
「今日は特にないな。ありがとう。」
「リックさん、今日は骨付き肉が食べたい気分なのです。買ってくるので、半生でお願いするのです。」
「ははは、それは肉の鮮度によりますね、焼き加減は買ってきてから決めましょう。」
マノンはリックともすっかり打ち解けている。とても喜ばしいことだ。
マノンは私にとって、初めての友達と言っていい。
だからこそ、大切にしたい。
だけど、妙な噂を耳にしているのも事実だった。
私は、私と、私の友達を信じたい。
そういえば、最近は教会に行ってなかった。
アネモネ様にこの胸中を語れば、少しはモヤモヤも晴れるのだろうか。
私はマノンの無邪気な笑顔を見ながら思った。
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