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見覚えのある場所だった。
テーブルと、二脚の椅子。それ以外はなにもない。ただ広い空間があるだけ。
「俺は、何してたんだっけ。」
辺りを見回しながら、呟いた。
「あなたは死にかけています。」
聞き覚えのある声。テーブルを挟んだ反対側の椅子に女神が腰かけている。相変わらず、突然現れる。
「…アネモネか。死にかけてるってどういうことだ?」
「女神なのですよ?様とまでは言いませんが、さんくらいはつけたらどうですか?…覚えていませんか?あなたは猛毒を持つ蛇に噛まれたのです。」
なんとなく、おぼろげな記憶がよみがえってくる。そうだ、森で蛇に噛まれたんだった。それから、俺はどうなった?
「あなたは一命をとりとめていますが、まだ予断できない状況にあります。」
心の声に、アネモネは返事をする。
「…まだ生きてるんですね?女神様が直々にお迎えに来たのかと思ったよ。」
「…そうなるかもしれませんよ?」
アネモネは少し顔を曇らせて言った。マジか、そんなに深刻な状況なのか。
「普通の人なら即死でしたよ?私の加護があったので、こうして生死をさまよっていますが。」
「あの森にそんなヤバいモンスターがいたとは知らなかったよ。そういえば、他の二人は無事なのですか?ちゃんと森からでられましたか?」
「ええ、あなたの仲間のお二人は無事ですよ。」
良かった。イリスもマノンも無事ならそれでいい。マノンはそういえば腹を空かせてたんだっけ。ちゃんと食え……マノン?
何か、マノンのことで忘れてることがある気がする。
「…覚えていませんか?あなたはマノンという獣人のハーフに何をされたのか。」
アネモネが、脇腹を撫でている。脇腹?俺は自分の脇腹をさする。痛み?違和感?……思い出した。
何があったか思い出し、痛みも思い出して背筋が凍る。
「俺、マノンに喰われかけたんだった。」
「…客観的に見ると、そうなりますね。」
アネモネの含みのある言い方。どういうことだ?
「どうして彼女がそうしたのか、じっくり考えることをオススメします。何事も、起きた事実は変えられません。ですが、どうとらえるかは、人それぞれです。」
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