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ニコラがスキレットの蓋を取ると、肉とラベンダーの香りが部屋に広がった。ニコラが人数分の器に取り分けるのを見て「運びます」と立ち上がったロルフは、二人に瞬時に制された。
「ロルフ、何度も言うようだけれど、お客様はゆっくりしていてくれないと」
「お気持ちは有難いですが、これは私の仕事ですので」
ジェムの何度目かわからない苦笑いを見て、ロルフは首をすくめた。どうも何もしないで座っているだけというのは居心地が悪い。ニコラの背を眺めながら落ち着かない様子でいると、振り向いたニコラが真っ先にスープカップを置いてくれた。
「日暮れの近い森は肌寒かったでしょうから。体が温まるように今日は煮込み料理です」
淡々と言いながらジェムの前にも器を置き、暖炉の前に戻る。ロルフは慌てて礼を言いながらも、目の前の料理に釘付けになった。
小さいサイコロの形をした肉がスープの中でとろりと溶けており、きらきらと浮かぶ肉汁が食欲をそそる。ロルフは一日中飲まず食わずで走り回っていたことをここにきて思い出した。いい香りにすきっ腹を刺激されて唾をのむと、ニコラがテーブルの真ん中に白くて丸いパンを籠ごと置いた。
「スープはマンチットと一緒に食べるのがおいしいですよ」
パンをひとつ渡してくれたニコラに礼を言い、促されるままにちぎってスープにひたす。そのまま口に運び、面白いように目を輝かせたロルフを見てジェムは破顔した。
「口に合ったみたいだね」
「すごくおいしい…すごい、ニコラ」
ロルフは興奮を抑えきれず、喜色満面のままパッとニコラを見上げた。すぐに
「あ、ごめんなさい、ニコラさん」
と言い直したが、ニコラは初めて向けられたロルフの会心の笑顔に、思わず口角を緩ませた。
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